教育機関が得た教訓: メンタルヘルス

燃え尽き、デジタル眼精疲労など、今日の APAC 地域で活躍する教育機関のリーダーが共有したメンタルヘルス関連の知見をご紹介します。

手を振ってみせる学生

教育機関の新時代に特有のメンタルヘルス、燃え尽き、デジタル眼精疲労に対処する

私たちの多くにとってパンデミックは起きたことすら忘れたい出来事ですが、世界には多面にわたり不可逆の変化が起きています。

 

IBRS は 2022 年の 1 月から 3 月にかけて、ANZ および ASEAN 地域の初等・中等・高等教育機関を対象に聞き取り調査を実施し、教育部門が受けた影響について探りました。できあがったレポートで目立った点は、ロックダウンを乗り切るために採用された革新的な方式の多くが、教育の未来を方向づけると思われること、その一方で新しい問題が発生しており、対処が必要であることです。

メンタルヘルスは優先的に対処すべき課題

ロックダウンで生徒と教師のストレスレベルは高まりました。双方がビデオ カンファレンス疲れ(ビデオ コミュニケーションの「常時オン」の状態に対するストレス反応)を自覚し、生徒のエンゲージメント(またはエンゲージメントの欠落)にメンタルヘルスの問題が従来よりも多くみられるようになりました。

 

このようにメンタルヘルス(とニューロダイバーシティ)が以前よりもはっきりと認識されるようになった結果、家族・学校・社会全体でメンタルヘルスの話題に対する抵抗感が薄まりました。単にストレスが高まったからではなく、タブーと見なされなくなったために、生徒からカウンセラーへの働きかけが増えました。

 

この文化的な変化は、おそらく不可逆です。今では生徒も家族もメンタルヘルスについて以前よりもオープンに話し合えるようになりました。生徒の抱えるメンタルヘルスの問題に対して学校が果たす役割についても、期待される内容が異なっています。

スクール カウンセラーに Viber、Facebook、電話など、多様な媒体を通じて相談できるようになりました。しかもこれらは単純な相談窓口ではありません。生徒一人ひとりがいかに大事かを示すことが、重視されています。

La Salle Green Hills、Joseph Ray Garrido 氏

スクリーン タイムは意図的な管理が必要

多くの人は、スクリーン タイムは教育機関が明確に管理する必要性があると考えています。その一方で、生徒・学生の生活がますますデジタル化されているという認識も、高まっています。そのためこの問題では、スクリーン タイムの短縮ではなく、目的のあるデジタル エンゲージメントに限定し、他形態のエンゲージメントとのバランスをとる方法を考える必要があります。

 

デジタル化が進む暮らしの中で生徒・学生が触れるものを反映した評価活動の作成こそが、喫緊の課題です。学生は、Google Docs でエッセイを作成し、デジタル プレゼンテーションを作成し、インタラクティブなオンライン ワークシートに取り組み、ビデオを作成しています。そのため、教師はスクリーン タイムを短縮する必要性を認識していますが、デジタル メディアと従来メディアのバランスがとれ、真に意味を持つ評価方法の発見は、難しい場合もあるでしょう。

教育分野ではよくあるとおり、[スクリーン タイムも] バランス重視のアプローチが大切です。スクリーン タイムという概念は、今では授業計画に欠かせない要素となりつつあります。生徒が画面以外で作業する時間を意図的に組み込む必要があります。スクリーン タイムを短縮するにはカリキュラムの細分化が必須ですが、そうすることで授業中、高い効果と集中を維持できます。

OneSchool Global、Carolyn Rhodes 氏

生徒主導の学習が必須

ロックダウン以前に主流だった教育アプローチといえば、長時間指導、次いで短期間指導、個別または少人数グループで作業能力を発揮する生徒でした。

 

ロックダウンはこの教育学アプローチの弱点を浮き彫りにしました。長時間のビデオ通話は、知識伝達の効果が薄いだけでなく、学習の妨げになる可能性を秘めていることがわかりました。IBRS が 2021 年に実施した一連のケーススタディでは、リモートビデオ セッションに対する生徒の取り組みがしだいに弱まっていたことが、指摘されました。この問題は、ただスクリーン タイムの不快感に起因するものではなく、従来の学習アプローチがもはや意味をなさないという、より大きな問題の現れでした。

 

これとは対照的に、同じ調査中にいくつかの教育機関が生徒主導の学習を重視した教育法を徹底的に活用したところ、リモート学習へのエンゲージメント レベルが高かったことを IBRS は指摘しています。教育機関によって、この教育法を指す用語はさまざまですが、一般的な構成は次のとおりです。

  1. 始動段階: 短期間の指導で最大 3 つの主要概念を教えます。
  2. 自主 / ディスカバリー段階: 生徒は教師から提供された課題に取り組みながら、学ぶべき概念について生徒どうしで考え、キュレーション済みの公開情報源を利用して自主的な調査を遂行します。
  3. メンター指導 / チュートリアル段階: 教師 1 人に対し 1 人ないし小グループの生徒が、質疑応答形式で対話します。生徒はほかの生徒や教師に質問し、考察を試みて、新しいインサイトを探しながら新しいアイデアを集めます。
  4. 統合 / 評価段階: 完成したプロジェクト、ワークシート、正規の試験などの活動を通じて、生徒は自分たちの新たな理解内容を示します。

従来の教育は、[第 2 次] 産業革命に呼応して、生産ラインを埋める同質の労働者を多数生み出すために作られました。しかし私たちは第 4 次産業革命の真っ只中にあり、型にはまった授業では、社会や生徒・学生のニーズを満たせません。インターネットで情報が民主化されているため、生徒・学生は与えられた型からはみ出して、さまざまな分野に目を向けることができます。今の学習は、生徒中心でしかありえないのです。

La Salle Green Hills、Joseph Ray Garrido 氏

教育時間帯がずれ、期待内容もシフトが必要

ロックダウン開始から 6 か月間は、多くの教育機関が教師の提供できる能力と生徒の期待内容のギャップに苦慮しました。指導段階が短めになり、自習活動が定常化する中で、生徒が教育活動に取り組む時間帯がずれ始めました。しかしその動きの中で、生徒は自分たちのデジタル ソーシャル習慣(と付帯する即時性)を教師とのやり取りに適用しつつありました。

 

新しい期待内容が確立された一方で、教師・保護者・生徒のコミュニケーションとコラボレーションの方法とタイミングについては、新たに一線を引く必要がありました。e ラーニング ポータルのメッセージ、インスタント メッセージ、グループビデオ セッション、ブレイクアウト ルームなど、新しい社会規範とコミュニケーション方法が定着しました。

私たちは教師に義務を課したくないので、教師と生徒・保護者の自主的な連携に任せています。期待内容の周知と全員の時間管理ルーチンの設定は欠かせませんが、期待内容は教師によって異なる可能性があるため、慎重を期す必要があります。そういう意味では、今も学校全体のポリシーが一定の役割を果たすべきです。

OneSchool Global、Carolyn Rhodes 氏

ニューノーマルに即した新たなルール

パンデミックの影響で、教育部門は進化を余儀なくされました。こうして私たちの教育に対するアプローチ方法が変化した結果、従来よりも質が高く新しい学習方法の機会が数多く生まれましたが、同時に数多くの課題が台頭しています。新たなテクノロジーと新たなアプローチに伴い、新たな制限を設け、新たな期待内容を規定する義務が生じ、メンタルヘルスに対しても、かつてない注力が必要になりました。ニューノーマルとともに生きていく私たちは、これらの決定的な要因に優先事項に据えなくてはなりません。

 


IBRS の調査は、Zoom の出資を受けつつも独立して遂行されており、Zoom のソリューションに焦点は当たっていません。この調査は公立および私立の初等・中等・高等教育機関を対象とした 12 の詳細なケーススタディ面接で構成されています。この IBRS レポートの全文を読むには、こちらをクリックしてください。