AI、リーダーシップ、ワークプレイスでの「信頼の文化」の構築に関するインサイト
AI のインパクト、信頼の重要性、優れたリーダーのマインドセットについて、PwC ワークフォース トランスフォーメーション プラクティス部門責任者である Toni Cusumano 氏との Q&A から学びましょう。
更新日 May 31, 2023
公開日 May 25, 2023
Smita は Zoom の最高プロダクト責任者として、Zoom のプロダクト管理部門を指揮しています。Google や Microsoft で 20 年以上のプロダクト管理の経験を誇る業界のベテランであり、Microsoft における IP ネットワーク上のテレビ放送の主導、Google Meet の主導と規模拡大、最近では Microsoft Teams のリアルタイム コミュニケーション プラットフォームとプロダクトの管理など、彼女の経験は多岐にわたります。ビデオのほかには、Google Voice(電話)、Google カレンダー、Google Tasks、ローカル広告主向けの Google AdWords プロダクト スイート、そして Google Chromebook のデバイス ポートフォリオとエコシステムを主導してきました。
Smita はインドで育ち、インド工科大学カーンプル校で電気工学の分野において学士号(B.Tech)を取得しました。プリンストン大学で EECS の修士号、そしてカリフォルニア大学サンタバーバラ校では画像とビデオの圧縮の研究に傾倒し、博士号を取得しています。
インド工科大学カーンプル校の優秀卒業生賞の受賞者であり、また同校の女性卒業生ネットワーク(WIN)の創設者でもあります。
AI イノベーションが今後、従業員と世界を変えていく仕組みについて書かれた記事が、巷にはあふれています。 また人工知能分野の目まぐるしい動きを考えると、いわゆる「仕事の未来」が急ピッチで進化していることは、疑いようもありません。
Zoom を含め多くの企業が、ユーザー体験の改善やビジネス プロセスの自動化に向け、多年にわたって AI を活用してきました。 数百万人もの人々から質問を受け、会話を続けたり、ストーリーを作ったり、詩を書いたりするほか、メールの下書きの作成、チャットやミーティングの要約といった日常的な作業を支援する ChatGPT など、大規模言語モデルの爆発的な展開により、ここ数か月で AI テクノロジーは、一般の人々が普通に認知する技術になりました。
コーディング、HR プロセス、コンテンツ執筆など、毎日のように新しい AI イノベーションが現れ、従来は知的労働者のものだった領域も、新しく活用対象になってきています。 対して人々は、自分たちにとってこの状況が何を意味するかを思案中です。この新しいテクノロジー時代にも、人と人のつながりを大事にし続けるには、どうすればよいかを私たち皆が考えています。
人々のつながりは Zoom の取り組みの中心であり、AI に対する Zoom のアプローチでも人々のつながりを最重要視しています。人工知能により、人々が重要な仕事に集中できるようにすることで、人同士のつながりを実現できると私たちは信じています。Zoom の AI イノベーションは、皆様の生産性を高め、チームメイト同士のコラボレーションを支え、顧客とつながる方法を強化することで、皆様の人のつながりを後押しします。
Zoom の前回の働き方改革サミットでは、人工知能と人々のつながりにおける交わりに焦点を当てました。 このトピックについて語るのであれば、『Intelligent Automation』の著者である AI 専門家、Pascal Bornet 氏をおいてほかにないでしょう。 この記事は、私が Bornet 氏と AI の展望、また人間が有意義な作業に取り組む時間を AI の力で増やす方法について話し合った基調となる会話を発展させた内容です。
あなたは自動化と自動化が人々にもたらすメリットを熱烈に支持していらっしゃるため、一部からテクノロジー楽観主義者と呼ばれることもあるかと思います。 AI イノベーションは、どのようにして人々にメリットをもたらし、私たちの仕事にどのように影響するでしょうか?
私の大きな目標の 1 つは、テクノロジーを通じてより人間味あふれる世界を作ることです。テクノロジーを正しく使用して、健康、教育環境、働き方を改善することで、私たち自身の人間らしさを高められると信じています。私たちは生活の中で多くの時間を仕事に費やしていますが、従業員を対象とした調査によると、その 85% 以上が自分の仕事になんらかの不満を抱いています。AI を活用すれば、私たちがナレッジ ワーカーからインサイト ワーカーに進化できるのです。
それではインサイト ワーカーとは、何を意味し、どうすれば実現できるのでしょうか?
テクノロジーが大きなインパクトや劇的な変化をもたらしうる日常業務には、3 種類あります。 私たちの仕事の約 1/3 は、生産性の低いミーティングや何もインパクトの生じないメールです。この部分は無くしても構わないでしょう。 別の 1/3 は、反復的な手続き、事務的な処理、魅力のないロジスティクスです。この部分は自動化してもよいでしょう。
私たちの仕事の大部分が省略されたり自動化されたりすることで、インテリジェンスを必要とする業務に集中できます。このような業務は、私たち人間にしかできないものであり、インサイトの提示、コラボレーションの促進、意思決定などが該当します。テクノロジーが担う役割は、人間が生み出すアイデアの拡張をサポートすることです。
ジェネレーティブ AI は、人々や企業がアイデアや働き方を強化できるようにするツールの 1 つです。 企業は今、どのような方法で活用していますか?
ここ 2~3 か月だけでも、企業の素晴らしい使用事例がいくつもありました。 たとえばマーケティング分野では、チームが大規模言語モデルを活用し、クライアント向けにパーソナライズされたメッセージを生成できます。 財務チームでは、子会社から届く数百ページの財務レポートを要約するような使い方もできます。 人事部門が従業員向けにパーソナライズされたトレーニングを用意している事例もありました。 私自身はこれを日々、調査やアイデア作成に活用しています。
このようなテクノロジーが持つ制限については、もっともな懸念が存在します。チャットボットが、不正確な答えや事実を捏造した答えを生成したというレポートも見られます。 ChatGPT のようなジェネレーティブ AI を使用するときの留意事項は何ですか?
私がジェネレーティブ AI で気に入っている点は、テクノロジーを利用して私たちが話し合えるところです。 しかし、大規模言語モデルは、自らの発言の意味を理解しているわけではありません。 ChatGPT を使用すると、お互いにコミュニケーションを取っているように感じられ、この AI テクノロジーが物知りであるように錯覚しますが、実はただ言葉を集めてつなぎ合わせているだけです。 これらのシステムが結局は数学的なものであることを踏まえ、システムが生成する不正確な情報や矛盾した情報に注意する必要があります。
AI では、偏見による影響が存在します。 何が問題で、その問題はどうすれば回避できますか?
仰るとおり、偏見が反映されている可能性がある答えにも注意する必要があります。 たとえば医師に関するストーリーを作るように ChatGPT に指示すると、医師の代名詞として「彼」が使用され、ストーリーの医師が男性であることが暗示されます。 これらのモデルは人々のデータに基づいてトレーニングされているため、私たち人間の持つ偏見が反映されてしまうのです。 トレーニングに使用するデータは、必ず複数のソースから採取しなくてはなりません。 人間由来の偏見を常に念頭に置き、データのパターンに疑いの目を向けると効果的です。 このため私たちは、批判的思考を養う必要があります。
AI を人間の営みに適合させ、取り入れるために、人々は批判的思考に加え、どのようなスキルを伸ばすべきでしょうか?
この新しい時代に私たちが磨くべきスキルは 3 つあり、批判的思考はその 1 つです。人間にできて、テクノロジーにはできないことが 1 つあります。それが何かは、翻って私たちに突き付けられている問いです。私たちは「これが信頼に値するものと判断するにはどうすればよいか?この情報は全容を示すものか?」と自問できます。批判的思考こそ、私たちが真偽の不確かな情報を受け取るに当たり、これまで以上に必要となるものです。私たちは情報を鵜呑みにせず、批判する能力を持つ必要があります。
2 つめの必須スキルは関係構築です。 私たちには共感力があり、ほかの人々が期待していることを推し測ることができるため、コンピュータが関係構築力で人間を上回ることはないでしょう。
3 つめの必須スキルは創造性です。私の言う創造性とは、大規模言語モデルの動きとは異なる、真の創造性です。 ChatGPT は、別々に存在する既存の要素を組み合わせ、ストーリーを作ることができます。 創造性とは、新しい要素を生み出すことです。 創造性とは、私たちが思考力を働かせて行う営みであり、私たちの性格、背景、一人ひとりの個性も関わってきます。 人間はかつてないものを生み出すことができ、その能力は人工知能にはありません。
自動化などの機能にビジネス上の利点があることは明白ですが、自分たちの仕事に与える影響について懸念する人々は多数います。 この一連の AI イノベーションで自分の役割が奪われるのではないかと不安に思う人々に、どのような言葉をかけますか?
人類史では同じことがすでに起こっています。 新しいテクノロジーが発明された結果、リダンダンシーが生まれましたが、同時に新しい仕事も生まれました。 今回の AI イノベーションが、それと同じだと考える人々もいます。 このイノベーションが、単なる自動化テクノロジーと考えているのです。
しかし今回は違うと考える一派もいます。 かつて私たちには、新しい主題に合わせ、自らを鍛え直した時代がありました。 今回は物事の進展が非常に急速です。 人工知能のさまざまな能力が指数関数的に進化しているため、私たちはその動きに遅れずに付いていき、順応性を持つとともに、ますます複雑になる一方の世界での学び方を身に付ける必要があります。
上述の批判的思考、関係構築、創造性という 3 つのスキルがあるため、テクノロジーを取り入れてもリダンダンシーが発生する可能性は低いでしょう。 しかし私たちが磨くべきスキルレベルは、かつてとまったく異なります。
今後 20 年における働き方の未来は、どのようなものになるでしょうか?
反復作業の質を高め、迅速に処理し、人間の作業を強化することで、テクノロジーは追加の価値を生み出すでしょう。 私たちがユニバーサル ベーシック インカム(UBI)などの仕組みを通じ、その価値を平等に共有できればと願っています。 私たちは、富裕層だけがテクノロジーの恩恵を受け、さらに富み栄える未来は求めていません。 テクノロジーのある未来は、あらゆる人々のためのものであり、誰一人として取り残されてはなりません。 幸いテクノロジーが私たちを単調な仕事から解放するため、未来の仕事の世界では、私たちの労働量が少なくなるかもしれません。 そのためレジャー、家族、友人など、私たちが人間だからこそ大事に思うものにかける時間は、増えることになります。
インサイトを共有いただいた Pascal 氏に心から感謝いたします。私たちの談話の詳細を聴き、顧客が仕事に AI を取り入れている様子を知りたい方は、Zoom の働き方改革サミット(オンデマンド)をご視聴ください。