生産性向上の先に描く理想とは? AI戦略の“攻め”と“守り”を両立するZoomプラットフォーム
生産性向上の先に描く理想とは? AI戦略の“攻め”と“守り”を両立するZoomプラットフォーム
2020年
不動産
AIを前提とした働き方にシフトする中、営業部門でのAI利用も推進。商談後のメモおよびSalesforceへの入力の負担や、内容が属人化しやすくトップセールスのノウハウをチームで共有しにくいなどの課題があった。以前利用していた文字起こしツールでは、データの権限管理の粒度が粗く柔軟な運用ができなかったこともあり、よりAIとの協働がしやすい新たな会話解析ツールの検討を始めた。
Zoom Revenue Acceleratorを活用し、会話内容の要約からSlack通知、Salesforce転記まで一連の作業を自動化。優れた商談の流れをチームで共有する文化が自発的に醸成され、トークスクリプトの改善やチーム全体のスキル底上げにつながっている。全社のAI戦略の中でも、Zoomプラットフォームを音声データをLLMOps基盤に流し込むパイプラインの入り口と位置づけ。さらなる活用を模索している。
「日本の価値を上げる」というミッションのもと、全国10拠点(2026年5月時点)で建築、テクノロジー、ホスピタリティを融合させた別荘を提供するNOT A HOTEL。創業6年で契約高650億円超という急成長を支えるのが、全社を巻き込んだ積極的なAI戦略です。
同社がAI活用で目指すのは「100人で回す仕事を1人にするのではなく、1人の生産性を100倍に引き上げること」。AIを前提とした働き方にいち早くシフトするとはどういうことか? そのためには何が必要なのか? 事業を加速する、新時代の組織作りに迫ります。
2020年に創業し、急成長を続けるNOT A HOTEL。「世界中にあなたの家を」というコンセプトのもと、既存のホテルや不動産とは異なる市場を切り拓いてきました。
企画・販売するのはNIGO®、ビャルケ・インゲルスといった国内外の著名なクリエイターや建築家が手がけるハイエンドなシェア型別荘です。家族や友人と自由に滞在できるのはもちろん、利用しない期間には宿泊施設として貸し出せるというビジネスモデルです。

Photo: Kenta Hasegawa
当初からデジタルを活用した快適な住空間を志向してきた同社は今、生成AIの業務への導入とデータ活用を、全社で強く推進しています。
そんな変革期を支えるのが、2024年に誕生した「Business Accelerator(以下、BA)」と呼ばれる部署です。いわゆる“情シス”として連想する社内システムの導入・管理にとどまらず、「テクノロジーを使って事業を加速させる存在でありたい」という思いから名付けられました。
Tech Leadを務める梶原成親氏を含むわずか6名のチームで、約500名の社員の多様な業務変革を支えています(2026年4月現在)。

成長フェーズの同社は、ホテル運営に携わるスタッフ、シェフやソムリエ、建築家など、多様な専門性を持つメンバーが在籍しています。ITとの距離感もそれぞれ、自身の専門領域に集中したいメンバーも少なくありません。
そんな中で、AIファーストなカルチャーをつくるために梶原氏が大切にしたのは「小さな一歩から便利さを実感してもらうこと」。
「経費精算ってどうやるの? このマニュアルを要約してほしい、などのちょっとした質問や要望に応えてもらう便利さを実感すれば、次のステップに前向きになりますよね。最初から使いこなせるリテラシーの高いユーザーや技術者だけでなく、誰でもいつでも気軽に生成AIに触れる環境を用意しておくのは、カルチャー醸成に非常に重要だと思います」(梶原氏)
現場のソムリエがエンジニアの手を借りずにアイデアを形にしたのが、ワインのラベルを撮影すると、社内規定に準じた管理用のネーミングをしてくれるアプリです。今では非技術者でもAIを使いこなせるという実感が組織の中で広がっており、自動化や業務効率化の取り組みが多数立ち上がっています。
役員から現場メンバーまで、立場ごとに最適なAI支援を提供することを大切にしており、経営陣一人ひとりに、個別に伴走するAIエンジニアを配置。業務課題を解決するアプリを1対1で開発できる体制を構築し、従来約1カ月かかっていた機能開発が数日単位に短縮され、トライ&エラーを高速で回せるようになりました。
梶原氏は「少人数で運営できているのは、自動化とAI活用の積み重ねによるものです」とここまでの歩みを振り返ります。

NOT A HOTELのAI活用は、これまで3段階のフェーズで進化を遂げてきました。
第1段階は、個人レベルでツールを活用する「Chat-Based AI」フェーズ。ChatGPTの登場をきっかけに、AIとの対話で質問や指示出しをして、日常の業務を個々で効率化する文化を醸成してきました。
2025年後半に本格化した第2段階は、Notion AIやGitHub Copilotなどの業務ツールに統合する「Agent Type AI」フェーズ。社内SaaSへのアクセスを容易にし、社内のナレッジベースを参照しやすくすることで、エンジニア以外の職種でもデータ活用を進めていきました。
そして今、同社が取り組んでいるのが第3段階、業務フローへの組み込みと自動化を目指す「LLMOps」フェーズ。n8nをLLMOps基盤として活用し、各種ワークフローにLLMを組み込んでいます。これにより従来は最短8日程度かかっていた入社時のアカウントセットアップが、誰も手を動かすことなく完了するようになりました。
Zoom MeetingsやZoom PhoneでなされたWeb会議や通話の文字起こしデータは、内容を要約してSlackに通知するとともに、Salesforceにも自動で転記。AI分析パイプラインに投入することで、問い合わせ傾向の分析やネクストアクションの自動抽出にもつなげています。

梶原氏は、完全自動化を目指す中で、システム設計の発想そのものが変わったと語ります。
「以前はシステムを人間が使いやすいように設計していましたが、今は“AIが処理しやすいように”が最重要に。APIの有無、適切なデータ構造、イベントやWebhookによる自動トリガーがあるかどうかなど、ツール選定の基準そのものが変わってきています」(梶原氏)
データを適切な形で収集し、整備することが不可欠になっていく時代。「今から始めた企業と、後手に回った企業では、中長期で見れば、データ活用への投資差が競争力差として顕在化していくはずです」と、梶原氏は力強く語ります。
NOT A HOTELのセールスチームは、インサイドセールス(IS)とフィールドセールス(FS)を分業する「The Model」型の組織体制を敷いています。資料請求をしたオーナー候補に電話をかけ、Web会議での商談につなげ、そして成約へ。一連のプロセスを支える中核が、Zoom Revenue Accelerator(ZRA)です。
もともと同社では別の製品で文字起こしをしていましたが、個人情報を含むデータの権限管理に課題を感じていました。Business Acceleratorチームで、主にセールスやマーケティング領域の業務改善に取り組むAIエンジニアの齋藤孝一氏は、導入経緯をこう振り返ります。
「お客様の個人情報を含む重要なデータですから、適切な権限管理は不可欠です。前のツールはその粒度が粗く、特定のグループごとに細かく権限を設定するといった柔軟な運用ができませんでした」(齋藤氏)

ZRAは、顧客との面談・商談内容をZoomプラットフォームに内蔵されたAI(Zoom AI Companion)で解析し、必要な情報をしっかり伝えるための改善点、契約や購買につながるポイントなどをアドバイスする会話分析ツール。成約に直結する営業部門はもちろん、顧客の声を聞くカスタマーサポートや、採用面接の多い人事などの領域でも活用されています。
同社は、営業部門にZRAを導入。すでにZoom MeetingsとZoom Phoneを導入しており、電話とWeb会議をまとめてデータ化・解析できるのもメリットでした。
権限管理の柔軟性に加え、文字起こしの精度の高さ、他社SaaSとの連携しやすさ、そしてZoom PhoneとZoom Meetingsに加え、Google Meetによる商談も解析対象にできること(※同社では利用していないがMicrosoft Teamsも可能)などの理由から乗り換えを決めたといいます。
「Google Meetでの商談もZRAで分析できると聞いて最初は驚きました。営業メンバーたちは、お客様のニーズに合わせてどちらを使うこともあるので、ツールを問わないのは便利です」(齋藤氏)
これによって生じる導入のハードルの低さも、ZRAの強みではないかと齋藤氏は話します。
「Zoom Meetingsをデフォルトとしていない企業であっても、既存の会議ツールを変えることなく試験導入から始められます。小さなグループで効果を確かめてから全社展開というアプローチが取りやすく、スモールスタートに向いた製品だと思います」(齋藤氏)
導入後、最も現場に響いた変化が、商談メモ作成の自動化です。従来、営業担当者は顧客との会話のあと、手作業でメモを整理してSalesforceに入力しており、1件あたり数十分程度の時間を要していました。
ZRAでは、事前に設定したプロンプトに沿って項目ごとの要約や評価が自動生成されます。Slackを通したチームへの周知、Salesforceへの転記までが自動で完了するようになりました。
セールス部門全体のオペレーション改善に取り組むリレーションシップマネージャーの石丸浩典氏は、実感をこう話します。
「商談が終わってしばらく待てば、Salesforceへの登録まで済んでいる状態になります。記録作業だけで多い時は1日の3分の1から半分ほどが奪われていた現場からすると、これは劇的な変化です」(石丸氏)

Salesforceからワンクリックで、商談内容の詳細にアクセスできる環境が整ったことで、優れた商談の流れやポイントをチームで共有し、PDCAを回す文化が自発的に生まれました。「この人のこの部分をまねしたい」「こう伝えたらわかりやすそう」という声から、全体のトークスクリプトの改善にも役立てられています。
「組織が拡大し採用も増えていくと、どうしてもスキルの標準化が難しくなります。ZRAを通じてトップセールスのナレッジを可視化することで、チーム全体の底上げにつなげつつ、何よりお客様にとってのわかりやすさ、安心感、満足度を日々追求しています」(石丸氏)
さらに、ZRAは「部署間をつなぐハブとしても機能している」といいます。資料請求を受け、電話で商談につなげるインサイドセールスと、そのバトンを受け取り、商談から成約までを担うフィールドセールス。
同じフォーマットで現状が整理され、リアルタイムに可視化されることで、シームレスに情報が共有できるようになったと実感を語ります。

梶原氏は、Zoomプロダクトは単なるWeb会議や文字起こしのツールにとどまらず「我々のAI戦略において、音声データをLLMOps基盤に流し込むパイプラインの入り口であり、“攻め”と“守り”を両立するプラットフォーム」と評価します。

ユーザーフレンドリーで使いやすく、Okta連携もスムーズでセキュリティやガバナンスの面でも安心して使える「守り」の面と、生成AIによるデータ活用と業務変革を強力に推進する「攻め」の面。チャットやドキュメント管理ツールも内包するZoomプラットフォームはさらに活用できる余地がありそうだと期待を寄せます。
「弊社は社内ツールを常に見直しており、生産性に貢献していない、より成果が見込める競合がある場合は、ドラスティックに切り替えてきました。Zoom MeetingsとZoom Phoneは、導入から6年にわたって使い続けている数少ないツールです。安定した品質、APIの充実度、そしてプラットフォームとしての統合性は、私たちのAI戦略とも合致しており、さらなる進化を期待したいです」(梶原氏)
NOT A HOTELは現在の10拠点から、さらに全国各地に広げていく展望です。拠点が増えるほど、コミュニケーションの複雑性は指数関数的に高まります。少数精鋭体制を維持しながら、拡大期を支えるためにはどうしたらいいのか? BAチームは来るべき未来を見つめています。
「現在のAI活用は『組み込む』ことを主眼にしています。次は、AIエージェントが自ら判断して実行まで行う『自律実行』の段階へ進化させたい」(梶原氏)
次のフェーズとして梶原氏が描くのが、Agentic AIの活用です。
具体的には、Zoom Phoneで受けた通話をZRAが文字起こしし、AIエージェントが内容を判断して後続アクション——例えば、予約の変更や問い合わせの分類、担当者のアサインといった操作を自動で実行する「音声をトリガーとした業務自動化パイプライン」の構築を目指しています。
「ZoomのAPIがさらに充実すれば、当社の独自PMS(宿泊施設管理システム)やNotionとのより深い連携が可能になり、人が介在しなくても完了する定型業務の範囲を大幅に広げられるはずです」(梶原氏)

拠点拡大に伴い、各拠点の通話データや会議データをAIが横断分析し、「この拠点ではこういう問い合わせが増えている」「このオペレーションフローに改善余地がある」といったインサイトが自動的に見えてくる世界も視野に入っています。
「AIが仕事を推進する、人間はその判断をする——そんな未来に向けて、これまでの仕事のやり方を一度見直す(=アンラーニング)する必要があります。これまで自分が担うのが当然と考えてきた作業を一度棚卸しして、AIに任せられる部分を見つけていく。企業規模にかかわらず、そのサイクルの速さが今後重要になっていくのではないでしょうか」(梶原氏)