顧客と従業員の“声”を活用する攻めのリプレイス さくらインターネットが「Zoom Phone」を選んだ理由

容量無制限の通話録音と、生成AIの組み合わせで広がる可能性

Sakura Internet
設立:

1996年

本社所在地:

大阪府大阪市北区大深町6-38 グラングリーン大阪 北館 JAM BASE 3F

業界:

情報通信

導入ソリューション:

Zoom Meetings, Zoom Phone

課題:

オンプレミス型のPBXが耐用年数を迎え、リプレイスが必要に。同時に、コロナ禍を経て電話オペレーターの在宅勤務が標準になっており、自宅の通信環境によって通話品質が左右され、顧客満足度の低下や従業員のストレスにつながっていた。通話時の細かいデータも取得できず、品質が低下した時に原因がどこにあるのかを切り分けて特定することも困難だった。

導入成果:

Zoom Phoneへのリプレイスにより、在宅勤務環境でも安定した高い通話品質を実現。 オペレーターへのアンケートでは、ほぼ全員が「音質が良くなった」「通話が途切れなくなった」と回答した。 「通話品質ダッシュボード」により、発信側/着信側それぞれのネットワーク状況が可視化され、トラブル発生時の問題の切り分けが容易に。 容量無制限の通話録音機能により、通話データの分析・活用の可能性が広がった。

導入ソリューション

日本のインターネット黎明期に創業し、レンタルサーバーやクラウド事業を幅広く展開してきたさくらインターネット。近年ではGPUを使った生成AI向けクラウドサービスも好調で、2025年3月期には過去最高収益を記録しました。デジタル庁が推進する政府や自治体向け共通クラウド環境「ガバメントクラウド」にも国産企業として初めて条件付きで認定されるなど、デジタルインフラ業界のトップランナーとして成長を続けています。

 

そんな同社が、顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の向上を目的に、社内の一部電話システムをクラウドPBX「Zoom Phone」に刷新しました。

 

目指すのは、顧客の声を直接聞きとれる貴重な通話データのさらなる活用。電話としての使い勝手は大きく変えず、裏側では音声データの蓄積とAIによる分析を本格的に進めていく――IT業界の雄の、静かな攻めの一手とは。

Sakura

通信環境に左右されない快適な通話 働きやすさと品質の両立を目指して

インターネット黎明期から、レンタルサーバー事業やクラウド事業を提供してきたさくらインターネット。「『やりたいこと』を『できる』に変える」を企業理念に掲げ、多くの法人・個人の事業発展や課題解決に技術的な面から伴走してきました。設定につまずいた時やトラブル発生時にも安心して使い続けてもらうために、メールやチャット、電話での丁寧な顧客対応は長年にわたって大きな意味をもっています。

 

従来のカスタマーセンターでもIP電話やソフトフォンを導入していたものの、オンプレミス型の機器を利用していたため耐用年数に限りがあり、今後のリプレイスの方向性を模索していました。加えて、同社にとって大きかったのが、コロナ禍を機に電話オペレーターの在宅リモート勤務が標準となっていたこと。それぞれの自宅の通信環境によって、顧客との通話品質が大きく左右されてしまっていました。

 

クラウド事業本部 カスタマーリライアビリティ部長の大西圭一氏は、当時の問題意識をこう振り返ります。

 

「お客様からカスタマーセンターにお問い合わせいただく際は、トラブルや困ったことなど、焦りや不安、怒りに起因するネガティブな理由で問い合わせいただくことも多いです。その時に、お互いの声が聞きとりにくく、何度も言い直しや聞き直しが発生すると、それだけでお客様からの心証がさらに悪くなってしまうことも。オペレーターにとっても、自身のスキルや知識とは異なる部分でお客様に迷惑をかけてしまうのが少なからずストレスになっていました」(大西氏)

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さらに、従来のPBX環境では、音声品質低下の理由を切り分けて把握するのが困難でした。

 

「オペレーター側の通信環境か、お客様の環境か、電話回線か、会社のネットワークの問題か……。要素ごとに細かくデータを確認する方法がなく、具体的かつ実効性のある改善に至るのが難しいことも少なくありませんでした」(大西氏)

 

データセンターでの顧客対応で使用していたハードウェア型のPBXも、同じく切り替えが必要なタイミングになっていたところに、ベンダーである双日テックイノベーションから紹介されたのがZoom Phoneでした。

「高品質でわかりやすい」Zoomプロダクトへの信頼感

「すでにZoom Meetingsが全社的に浸透しており、音質や画質の高さ、UIのわかりやすさに信頼感があったことも大きかった。当然、ある程度のスイッチングコストが発生することは避けられませんが、現場の使い勝手が向上するのであれば、ぜひ試してみたいと考えました」

 

大西氏とともに、導入をリードしたクラウド事業本部カスタマーリライアビリティ部CXデザイングループの岩本拓也氏は、Zoom Phoneに関心を持った理由をこう語ります。

 

電話システムのリプレイスにあたって、同社が必須要件としたのは、(1)通話品質の向上、(2)これまでのサポート窓口のトールフリー番号(0120番号)を継続利用できることでした。

 

通話品質の確認のためには、何よりデータが不可欠。早々にテストアカウントを発行し、PoCでZoom Phoneの通話品質と機能検証を実施しました。その結果、通信が不安定になりがちな自宅環境でも高い通話品質が維持でき、コールフローやIVRなどの設定も含めて、従来と同様の運用が実現できることが確認できました。

 

「設定もわかりやすく、ソフトフォンやPBXをある程度触ったことのある方なら、簡単に理解できると思います。大規模なシステム障害が発生した場合など『専用の問い合わせ窓口を1週間以内に設置したい』というケースもあるのですが、そのような緊急対応が必要な時も、自社でスピーディーに動ける幅が広がりました」(岩本氏)

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管理面でのメリットも大きく、利用にあたっては既存のZoomライセンスに、電話機能のオプションを付与するだけ。日常的に利用しているZoom Meetingsとも一元管理でき、ユーザー数を部署ごとに柔軟に把握・調整しやすいのもメリットでした。

 

トールフリー番号の継続に関しては、KDDIが2023年春に提供開始した「Cloud Calling for Zoom Phone」と「フリーコール」を組み合わせて利用。カスタマーセンター、データセンターともに、これまでの0120から始まる電話番号をそのまま継続利用することができました。

容量無制限で録音可能 広がるデータ活用

さらに、導入にあたって同社がZoom Phoneの優位性として大きく評価したのは、通話データの蓄積・活用の可能性の広さです。

 

Zoom Phoneの大きな特徴が、通話録音機能が標準搭載されており、追加料金なく、容量無制限で利用できること。録音データはZoom側のクラウドに保存され、Webポータルから簡単に確認できます。これまでは、設定されたストレージ容量がいっぱいになるとデータを移行する必要がありましたが、その手間もなくなりました。

Zoom Phone管理者向け画面の例:保存された音声データを確認できる「レコーディングレポート」

Zoom Phone管理者向け画面の例:保存された音声データを確認できる「レコーディングレポート」

 

録音データそのものをスタッフの教育やサービス品質の向上に利用できるのはもちろん、Zoom製品に共通して搭載されている生成AI「Zoom AI Companion」の機能を通し、さらに深い分析や活用も可能になるのではと期待を寄せます。

 

「お客様からいただくお声を VOC(Voice Of Customer)といいますが、当社では社員からの声をVOE(Voice Of Employee)と呼び、同じように重視しています。ヒヤリハットの観点から起こりやすいエラーを特定したり、経験が浅いメンバーが起こしやすいミスを未然に防いだり、システムの改善やDXに生かしやすいアイデアが現場の社員から多数上がってくる状況をつくれています。音声データをさらに一歩踏み込んで分析することで、ナレッジとしての精度をさらに高めていけるのではないかと考えています」(岩本氏)

「オンプレ環境に迫るほど良好」ダッシュボードで通話品質を確認

PoCを経て、2024年6月に正式にZoom Phoneに移行。通話品質の実態確認という目的を伏せてオペレーター向けにアンケートをとったところ、ほとんどすべてのメンバーが「音質が良くなった」「通話が途切れなくなった」「雑音が入らなくなった」とポジティブに評価しました。

 

大西氏も、「データを見ても、みなさんの実感を聞いても、音声品質はオンプレミス環境に迫るほど良好。十分満足できるものでした」と話します。

 

音質低下があった際に問題を特定するのが困難という従来の課題も、Zoom Phoneの「通話品質ダッシュボード」によって大きく解消されました。

 

通話記録ごとに、品質を示すMOS(Mean Opinion Score)値が表示され、3.5以下の場合はさらに詳細を確認することができます。発信側、着信側それぞれでビットレートやパケットロス、ネットワーク遅延などを数値で確認でき、何によって問題が生じたかが一目瞭然です。

Zoom Phoneの通話品質ダッシュボード。右上の数字が品質を示すMOSの値

Zoom Phoneの通話品質ダッシュボード。右上の数字が品質を示すMOSの値

 

「一般的なツールに比べて管理画面の見え方もしっかり考えられており、必要なところに必要な情報がまとまっているので、問題の絞り込みが格段にやりやすくなりました」(岩本氏)

 

さらに、他社ツールとの連携の豊富さも特徴。同社の場合、CRM(顧客関係管理)とSFA(営業支援システム)に導入しているSalesforceと連携し、Salesforce上の顧客情報から「クリック・トゥ・コール」ですぐに電話発信ができるようになっています。アプリケーションの切り替えや電話番号のタッチミスなどのオペレーションコストが削減され、業務効率化につながったといいます。

人間の価値を最大限高めるために、AIの力を

さくらインターネットのカスタマーサポートでは現在、顧客からWebでコールバック予約を受け付け、指定の日時にオペレーターから架電するようになっています。

 

「一般的なクラウドPBXとは異なり、Zoom Phoneは発信料が定額の料金プランが用意されており、架電に対する追加費用がかかりません。運用コスト面でも大きなメリットが生じています」(大西氏)

 

Zoom Phone導入から1年。操作面は迷わず習得できたほか、以前はオペレーターから一定の頻度で申し出があったという通話品質のトラブルも、ほとんど問題が出ておらず、Zoom Phoneに対して総合的な満足度は高いといいます。

Zoom Phone管理者向け画面の例:通話ごとに細かい数値をトラッキングできる

Zoom Phone管理者向け画面の例:通話ごとに細かい数値をトラッキングできる

 

「まだ実践していませんが、Web会議システムを持つZoomならではとして、電話とビデオ通話をシームレスに切り替えられる機能にも可能性を感じています。サーバーの実物をお見せしながら説明する、などが可能になれば、商談の方法やカスタマーサービスの選択肢が増えるかもしれません。視覚的な商品・モノを介してお客様とつながるビジネスにとっては、顧客とのコミュニケーションの幅を大きく広げてくれる強力なツールになるのではないでしょうか」(大西氏)

 

Zoom Meetingsで活用している通話内容の文字起こしや要約がZoom Phoneでも浸透すれば、顧客データとひも付けることでマーケティング領域にも活用できるかもしれない。音声からの「感情分析」まで可能になれば、さらにカスタマージャーニー全体の改善にもつなげられるかもしれない――大西氏は、Zoom AI Companionとの融合で成される今後の機能拡張も期待したいと話します。

 

「リアルタイム自動翻訳の充実なども楽しみです。今後、仮に弊社がグローバル展開を進めた時に、取引先や顧客とのWeb会議や電話、双方でしっかり活用できれば、ノウハウ豊富な国内のオペレーターたちのスキルを発揮できる場が広がるかもしれません」(大西氏)

2025年度末までに技術要件をすべて満たし、ガバメントクラウドの本認定を受けるべく、目下機能開発に取り組み、社会的にも高く注目されているさくらインターネット。

 

「政府や地方自治体に安定的かつ安全なクラウド環境を提供するにあたって、24時間365日対応のサポート窓口が新たに必要になる予定です。Zoom Phone導入当時には予期していなかったことではありますが、新規サポートダイヤルの開設やオペレーターの増員などにも柔軟に対応できる環境が整っています。今後の成長の中で、高い拡張性が役立つシーンはさらに増えていきそうです」(大西氏)

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