生成AI時代を勝ち抜く鍵は、 リアルコミュニケーションデータの活用 NECが11万人の電話に「Zoom Phone」を選んだ理由

人とAIが自然に協働する社会を目指して データの価値を高めていく挑戦

NEC Logo
設立 :

1899年

本社所在地 :

東京都港区芝五丁目7番1号

業界:

ITサービス事業、社会インフラ事業

課題:

オンプレミスPBXの保守期限が迫り、早急なリプレイスが求められていた。固定電話が必要な業務は減少しているものの、一部の業務ではオフィスに出社する必要が生じ、ハイブリッドワークの浸透が進む一方で柔軟な働き方の妨げに。全国の拠点に点在していたPBX環境の利用実態も把握できておらず、コスト最適化や業務効率化のための現状分析は疎かになっていた。AI時代に対応するために必要なリアルタイムコミュニケーションデータの蓄積・活用も十分にできていなかった。

導入成果:

Zoom Phoneの導入で、オフィス・自宅・外出先を問わず円滑なコミュニケーション環境を実現。ネットワーク環境が不安定な場所でも安定した高音質を維持でき、社員からも音質改善に高い評価が得られた。わかりやすいシンプルな操作性で移行のストレスも最小限に。固定電話は必要な台数に集約し、通話料も含む電話関連費用の約7割のコストカットに成功。リアルコミュニケーションデータの蓄積と分析環境も整い、生成AI活用やナレッジ基盤構築の土台が築かれた。

導入ソリューション

11万人の電話を一気にリプレイスし、約7割のコストカットを実現―日本有数のテクノロジー企業であるNEC(日本電気株式会社)が、大規模なコミュニケーション変革に挑んでいます。

 

2025年春、NECは、グループ企業の国内従業員の約11万人を対象に、クラウドPBX「Zoom Phone」を導入しました。約1年でスピーディに移行作業を完遂し、機器や回線数を全面的に見直し。通話コスト約7割削減という大幅なコストダウンに成功しました。

 

目的はコスト削減だけではありません。これまでもZoom Meetingsを中心にワークスタイルを変革してきた同社が次に目指すのは、より一層生成AI時代に適応したリアルコミュニケーションの確立です。

 

Web会議に続き、電話の音声もテキストでデータ化することで、社内外のやりとりをより精緻に共有・分析することが可能に。日々のリアルなコミュニケーションデータを生成AIで分析し、業務効率化や事業成長につなげていこうと未来を描いています。


11万人を対象とした大規模なZoom Phone導入までの背景と、Zoomプラットフォームを採用した理由、AI時代のコミュニケーションのあり方と展望について聞きました。

nIPPON  

  (写真左から)NECネッツエスアイ 金融・パブリックソリューション事業部 担当部長 吉田孝紀氏、NEC Corporate EVP 兼 CIO 小玉浩氏、NEC デジタルID・働き方DX統括部 シニア主幹 小口和弘氏、NEC同 マネージャー 清水岳史氏  

変わり続けることをDNAに—NECが構造改革で生まれ変わるまで

テクノロジーを軸に「安全・安心・公平・効率」の社会価値を創造する企業であることをミッションに掲げるNEC。1899年に日本初の外資とのジョイントベンチャーとして創業した同社は、125年の歴史の中で時代の変化に対応しながら事業を継続してきました。

 

長い歩みの中で、時には厳しい試練にも直面してきました。2010年代には、ハードウェア事業の競争激化とクラウドの台頭といったビジネス環境の変化によって収益構造が悪化し、事業の再編に迫られるまでに。苦境を「自らを見つめ直す機会」と位置づけて大胆な構造改革を進めるとともに、本質的な企業文化の改革に着手。「変わり続けることをDNAにする」という覚悟をもって変革を推進してきたのです。

 

こうした変革の過程で生まれた考え方が「クライアントゼロ」でした。自社をゼロ番目のクライアントとして位置づけ、最先端のテクノロジーを自ら実証する中で得た“活きた”ナレッジをお客様や社会に還元していくという戦略です。同社執行役Corporate EVP 兼 CIO 小玉浩氏は「NECが自ら実践したからこそわかるリアルなノウハウやナレッジは、お客様からも信頼をもって受け入れられています」と話します。

 

こうした改革の積み重ねが奏功し、2025年現在、8期連続で業績目標を達成し、時価総額は2017年比で8倍に。

 

「通信、AI、生体認証、サイバーセキュリティといった最先端領域を軸に、クライアントゼロの考え方のもと、社会全体のDXを牽引する存在でありたいと思っています」(小玉氏)

Nippon electric

“個の力”の最大化がDXの出発点

まずは自らが実践し、生きた知見を貯める。そんなNECが考えるDXとは「単なるデジタル化やIT化ではなく、本質的な企業改革を実行すること」と小玉氏は定義します。

 

「私たちがDXで目指すのは、社員のエンゲージメントを高め、アジャイルなカルチャーでチャレンジする組織をつくり、自ら新たな社会的価値を創造することです。DXを推進するのは人であり、よりよいコミュニケーションのための環境を構築して“個の力”を最大化することが組織を変え、新たな価値を生み、DXを成功に導くと考えています」(小玉氏)

 

こうした方針のもと、NECでは段階的にコミュニケーション改革を推進しており、第一歩として着手したのが、オフィス・自宅・外出先などの場所を問わず、円滑なやりとりができる「ロケーションフリー環境」の整備でした。

 

当時、その要となったのが、Zoomの「Zoom Meetings」。デジタルID・働き方DX統括部シニア主幹の小口和弘氏は、次のように振り返ります。

nippon elect

  「コロナ禍で働き方が一変したとき、社内のコミュニケーションを支える基盤として活躍したのがZoom Meetingsでした。高品質な通信に加えて、誰でも直感的に使える操作性は、コミュニケーションに特化して設計されたツールならではの強み。この“使いやすさ”は、今回Zoom PhoneをクラウドPBXとして選定する際にも大きな決め手の一つになりました」(小口氏)

Zoom Phoneを選んだ3つの理由

そんなNECが次なるコミュニケーション施策として着手したのがZoom Phoneの導入によるPBXのクラウド化です。

 

背景にあったのは、オンプレミスPBXの保守期限が2026年3月に迫っていたこと、コロナ禍において従来型の固定電話での業務継続が難しかった反省、AI時代に向けてリアルタイムコミュニケーションデータの蓄積・分析の重要性が増していること。

 

そして何よりも、今後クラウドPBXを選択する企業も増えていくと予想される中で「クライアントゼロ」の実践と、真に必要とされるナレッジの獲得を重視したことでした。

 

小口氏は、コロナ禍によって固定電話のさまざまな問題が顕在化したと当時を振り返ります。

 

「従来のPBXの場合、コロナ禍で緊急事態宣言が発出されても、固定電話でコミュニケーションせざるを得ない業務の人は出社しなければいけません。柔軟な働き方ができているとは言えませんでした」(小口氏)

 

2023年からリプレイスの検討が始まりましたが、それぞれの固定電話を誰がどのような用途で使っているか、どれくらい使われているのか、といった基本的な利用状況すら把握できていないことが判明。

 

「全国の営業所を含めて調査すると、誰が使っているのか、本当に必要なのか、把握できていない回線も少なくありませんでした」

  「数あるクラウドPBXの中からZoom Phoneを採用した理由は大きく3つあります」。導入プロジェクトを主導した一人、デジタルID・働き方DX統括部でマネジャーを務める清水岳史氏はそう説明します。

nippon  

1つ目は音質。複数のサービスを検討する中で、ネットワークが安定した環境下ではさほど差が出なかったものの、出先や自宅などネットワーク環境が良くない場所でのZoom Phoneの音質の良さが際立っていたと清水氏は実感を語ります。

 

2つ目はシンプルでわかりやすい操作性。電話というシンプルかつ日常的なツールだからこそ、移行によって使いにくくなってしまっては本末転倒です。

 

例えば、同社の場合、部門の代表番号にかかってきた電話をチーム内の誰かが応対する使い方が求められることが多く、電話を受けた人が別の担当者に直感的かつ素早く転送できるよう、UIがわかりやすいことが重要でした。

 

「他のサービスの場合、転送のボタンが深い階層にあり、すぐに押せないことも。Zoom Phoneはスマホアプリ上での操作がわかりやすく、転送時に間違えて切ってしまうなどのトラブルがなかったのが現場からも高評価でした」(清水氏)

nippon-comp

これまで固定電話でしかできなかった業務がPCやスマホから可能に(※撮影用にモニタに投影しています)

 

3つ目はコスト面。NEC社内への導入においては、物理PBXと比較してイニシャルコストとランニングコストの両方を抑えることができました。それに加え、Zoom Phoneは通話の音声データを容量無制限で保存できます。各ユーザーに対し、Zoom独自のAI機能「Zoom AI Companion」が標準搭載される仕様も魅力的だったといいます。

従来比7割減 物理PBXの撤廃で大幅コストダウン

Zoom Phoneの導入にあたっては、全国の拠点に点在していたPBX環境の棚卸しや同番移行の設定、キャリア回線のデータセンターへの集約を実施。

 

特に、各事業部門の利用状況を確認するPBX環境の棚卸しとクラウドPBXの設定については、各部門にとりまとめの担当者を立ててニーズを細かく確認しながら慎重に進めることで、11万人規模の移行を約10カ月という短期間で完遂しました。

 

この大規模移行を実働面で支援したNECネッツエスアイ DXソリューション事業本部の吉田孝紀氏は、プロジェクトの成功にあたって、導入側のニーズを汲み取りスピーディに対応するZoom側の姿勢が欠かせなかったと言います。

 

「固定電話をセキュアに社内ネットワークへ接続するための技術的な工夫や、私たちのリクエストに応じた機能のチューニングなど、テクニカルな面で米国本社を含めたZoomのチームが柔軟かつ丁寧に対応してくれたことがプロジェクト推進の大きな力になりました」(吉田氏)

Nec

Zoom Phoneの導入により、現場の社員たちは、従来は固定電話でしか受けられなかった社用番号やチーム・部署の代表番号にもスマホから応対できるようになり、管理部門も通話の利用状況をリアルタイムで把握できるようになりました。

 

物理PBXの撤廃と通信回線の最適化により、社内設備の大幅なスリム化を実現。全体として電話関連コストは従来比で7割削減という大きな成果を上げています。

 

加えて、「コスト削減という意味でもすでに成果が出ているが、より長期的な価値も大きい」と小玉氏は語ります。

NEC

NECが描くAIネイティブ時代の未来像とは

NECは、ハイブリッドワークの浸透を契機に、社内外の業務ツールやサービスをつなぎ、柔軟な働き方を支えるコミュニケーション基盤を構築してきました。今、その取り組みは「データドリブン×生成AI」という次のステージへと進化しており、その軸としてZoomプラットフォームとそこで得られるデータに一層期待を寄せています。

 

会議や商談の内容をまとめた議事録や要約を出力し、日々の業務効率化につなげるのはもちろん、さらなる発展的な活用も見込みます。メール履歴や名刺情報、プロジェクトファイルなどの社内の既存ストックデータと掛け合わせる、自社で開発する生成AI「cotomi」と組み合わせてナレッジとして再構築する――といった取り組みを、今後本格的に実践していく予定です。

 

「生成AIを深く活用するには、鮮度の高いデータが不可欠。日々のリアルコミュニケーションデータが貯まれば貯まるほど活用の幅が広がりますし、Zoomプラットフォームで得られたデータを軸に、さまざまなサービスとの連携で生まれる新たな価値に期待しています」(小口氏)

NEC

2023年5月には、こうした取り組みの基盤として社内生成AI環境「NGS(NEC Generative AI Services)」を立ち上げました。厳格なガバナンスとコンプライアンスのもと、NECの社員が安全に活用できる環境を整備しました。NGSは現在、167の社内システムとAPI連携しており、「cotomi」を含む複数の大規模言語モデル(LLM)を用途に応じて使い分けられる体制が整っています。

 

「私たちがこの取り組みで重視しているのは、“自社が保有する膨大なデータを、いかにお客様と社会に価値あるナレッジに変えていくか”という点。社内外の多様な情報を読み込み、生成AIでナレッジとして再構成することで、Zoomが取得できるデータをより実践的で意味のある知識へと昇華させていこうと考えています」(小玉氏)

 

こうしたナレッジ基盤の構築と活用の礎となるのが、Zoomをはじめとするコミュニケーション基盤。Zoomとのパートナーシップは、NECがいち早く見据える“AIネイティブな働き方”を支える重要な柱となっています。

 

「AIトランスフォーメーションが進む今、CIOはもはやIT部門の統括者にとどまりません。テクノロジーやデータ、業務プロセス、エコシステム全体を横断的に見渡し、AIやサイバーリスクも含めた戦略を描き、新たなビジネス価値を生み出すことが求められます。こうした変革の中で、企業の価値創出の核となるのはやはり“コミュニケーション”。人とAIが自然に協働できる社会、その未来を、Zoomと共に創っていきたいと考えています」(小玉氏)

今すぐ始める