「なぜか急にログインできなくなった」「授業でこんなことをやってみたいんだけど、どんなツールを使えばいい?」――入学したての新入生から、新しい授業の形を試行錯誤する教員たちまで、大学のITサポートが必要なシーンはさまざまです。
東京大学の「uteleconプロジェクト」は、学内で利用できる各種システム/サービス全般に関する質問にワンストップで対応している組織です。このチームの特徴は、学生たちが主体となり、教職員がサポートする形で取り組んでいること。学生からの問い合わせへの回答はもちろん、ベテラン教授の「わからない」を学部生が解決する姿も見られます。
異なる立場の人から日々寄せられるたくさんの質問に答える学生サポーターたちの活動を支える大事なツールが「Zoom Contact Center」(以下、ZCC)です。
コロナ禍のオンラインシフトをきっかけに
2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって対応を強いられた教育現場。東京大学も例外ではなく、緊急事態宣言による休校を余儀なくされる中、コロナ禍でも授業を継続できるシステム作りは急務でした。
uteleconプロジェクトに今も携わる、情報システム本部 副本部長 玉造潤史 准教授は、当時、Zoom Meetingsをはじめとするツール類を迅速に導入すべく日夜奔走していた一人。オンライン授業に対応しつつ、デジタルに不慣れな学生や教職員を取り残さないよう個別サポートする必要性も強く感じていたといいます。
また、学生有志のあいだでも、学内や他の教育機関向けにオンライン授業やWeb会議ツールなどの情報をまとめたポータルサイトの運営や、学生・教職員向けの個別相談対応などの取り組みが始まっていました。
情報システム本部 副本部長 玉造潤史 准教授
より早く広く現場に浸透させるための施策を充実させたい大学側のニーズと、ボトムアップで生まれた学生のボランタリーな仕組みが噛み合って生まれたのが、学生と教職員がワンチームとなってITに関する困りごとをサポートするuteleconプロジェクトでした。
一口にITサポートと言っても、システムによって管轄の組織が異なるため、「どこに問い合わせればいいのかわかりにくい」「たらい回しにされた」などの不満の声はコロナ禍以前から多かったそう。対面授業の制限が長期化する中、オンラインかつワンストップで対応できる組織を求める声も高まり、uteleconプロジェクトの規模は拡大していきました。
今は学内の情報システム全般に関する質問・相談を受け付けるオンキャンパスジョブ(学生が自らの専門性や知識を生かしながら、大学運営に携わる有償アルバイト)の1つ、「コモンサポーター」として学部生から博士課程まで、文系理系を問わず約50人が在籍しています(2024年10月現在)。窓口を一元化したことでユーザーにとっての利便性は高まったものの、繁忙期には月1500件を超える問い合わせが集中。
「問い合わせ手段も、メールやチャット、通話など複数のアプリケーションにまたがっており『これ、誰か対応しましたか?』と確認が必要になることも。問い合わせ数もサポーターの人数も増える中で、割り振りのオペレーションが煩雑になるという新たな課題が生まれてきました」
と、uteleconプロジェクトに初期から参加する德永紗英氏(大学院総合文化研究科 修士2年)は当時を振り返ります。
德永紗英氏 大学院総合文化研究科 修士2年
「Zoomのプロダクトなら信じられる」ZCC国内初導入を決断
日々寄せられる問い合わせを1つのツールに集約し、迷わず管理したい。あとから参照できる形で対応履歴を残したい。サポーター同士の業務量が均一になるようにうまく振り分けたい。
そんな細かなニーズをかなえるサービスを探し、導入に至ったのが「Zoom Contact Center」でした。
ZCCはコールセンターやカスタマーサポートでの利用を想定して開発されたツールで、WebサイトからのチャットやWeb通話(※同学ではカメラオフ、問題解決に必要な画面共有のみで使用)、電話(※同学では不使用)など、ユーザーからのマルチチャネルの問い合わせをまとめて管理できます。

勤務中のユーザーの中から最近の稼働が少ない人を優先して呼び出すキューマネジメント(自動振り分け)機能や、勤務時間内に対応が終わらなかった時に次の対応者に引き継げる転送機能なども備えています。
2022年に英語版の提供を開始していたものの、同学が検討し始めた2023年夏時点では日本国内での導入事例はゼロ。マニュアルの整備や言語面のローカライズもまだまだだった中で、2024年1月には国内初として導入を決めました。
その判断の背景として「コロナ禍以降で積み重ねてきたZoom社との関係が大きかった」と玉造准教授は語ります。
「2020年当時にZoom製品の早急な導入のため、かなりの頻度でコミュニケーションを取っていましたし、その後も定常的にミーティングを重ねてきました。対話を重ねる中で、プロダクトそのものの使いやすさはもちろん、常にアップデートしていく姿勢、教育現場のニーズに応えたいという熱意に感銘を受けました」
「そんなサポートの体制も含め『Zoomさんならしっかり一緒に伴走してくれるだろう』と。これまでのきめ細かいサポートへの信頼が決め手となりました」(玉造准教授)
「利用者が本当に求めているもの」に向き合う姿勢に共鳴
とはいえ、本来企業利用を想定して開発されたZCCを日本の大学で過不足なく使えるツールにブラッシュアップしていく日々は、トライアンドエラーの連続。
「ZCCが最初から機能的に完璧だったわけではまったくなくて、最初はどう運用でカバーしていくか学生たちと四苦八苦しました(笑)。ただ、日本のいちユーザーの要望に対し、ここまで真摯に米国の本社が耳を傾けてくれるのはすごいことだと思います。利用者が本当に必要としているものを提供したいというZoom社のスタンスは我々のサポートの姿勢とも非常に合っていると感じました」(玉造准教授)
トライアル導入段階から最前線で試行錯誤してきた德永氏は、学生ながら今やZoom社と直接やりとりする中心メンバーに。欧米の大企業で利用する場合には問題のない設計だとしても、大学のITサポートとしては使いにくい部分があるため、翻訳が気になる箇所、搭載してほしい機能などをまとめ、Zoom社に伝える役目を担っています。